この記法の大部分は、私こと長谷基弘 が10年以上の歳月にわたり、少しずつ練ってきたものです。 実際に今でも、テキストファイルだろうがWord文書だろうが、おおむねこの記法で書いています。
そんなふうに元々は、EPUB3のためのものではなく、あくまでも戯曲を書くときの記法でした。 書くのに楽で、自分や他人が後で読んでも読みやすく、データとして機械処理することが容易。 そういう感じののことを目指してきました。 ごてごてした時期もありましたが、時が進むにつれどんどん簡略化していき、最低限のものがいま残っています。
そんな「書くため記法」を、EPUB3戯曲の製作用にまとめなおしたものが、このΘέσπης記法です。
たいして難しくありません。
可読性が高いことが大前提の記法なので、印刷したり、ワープロソフトにコピー&ペーストしたりしても、ほとんどそのまま使えるはずです。 書くときにも、読むときにも、書いたものを管理する上でも、実用的なはずです。おそらく。
Θέσπης記法(テスピスきほう)は、テキストファイル(や、Word文書や一太郎文書など)に戯曲を書く際の記述ルールを、 EPUB3文書製作用として拡張したものです。
Θέσπης記法の根底にある目的は、
などです。 そのために、
などの手法を用います。
以下のいずれかの文字を行頭で使った場合、その行は「見出し行」です。
■ ● ◎ ○
ある見出し行から、次の見出し行が現れるまでの間が、ひとつの「セクション」です。
以下、各文字、というよりも、その字が先頭にある行の意味について説明します。
文書のいちばん最初にある「■」で始まる行は、劇の題名に使います。
それ以外の■の行は、トビラページの見出しとして使います。
書くときは、「しかく」で変換できます。
「●」は戯曲の本文で、シーンの見出しとして使います。
「●見出し」で始めることで、ここからが戯曲本文ですよ、という明示的宣言になります。
書くときは「まる」もしくは「くろまる」で変換できます。
「◎」は、登場人物一覧や上演歴など、戯曲本文以外のセクションで、見出しとして使います。
書くときは、「まる」もしくは「にじゅうまる」で変換できます。
特例的に、1つのシーンをブロック分けしたい場合、「○」を用いて見出しを作ります。
上の例では、「01/波止場」と「02/酒場」はシーンではなく、「シーン5」内の項のような扱いになります。
書くときは、「まる」で変換できます。
気をつけなければいけないことがあります。以下の三つは、執筆環境によっては同じ字っぽく見えます。
○ まる
◯ 大きなまる
〇 漢数字でつかうゼロ
「○ まる」を使いましょう。
行頭が半角の「#」の行は、コメント行とみなされ、EPUB生成時には無視されます。
メモや版管理などに使えます。
以上で説明した、見出しを表す特別な文字「■●◎○」と、コメント行を意味する「#」は、本文中では行頭に使えません。
例えば、「●●次郎」としたい登場人物名がある場合、以下の例では誤認識されます。
以上の例では、「●●次郎」の登場直後の台詞は、シーンの見出し行として認識されます。 つまり、前のシーンは「●●次郎」の登場で終わり、「山田山夫」の台詞から始まる新しいシーンが始まった、という形になります。
戯曲で「●●次郎」みたいに発音できない言葉を書くことに意味があるかどうかは不明です。 が、どうしても書きたい場合もあるかもしれません。
この制限を避けるためには、別の字を使うしかありません。 伏せ字表現として×をつかったり、発声不可能を明示したい意味で「▲◎次郎」などとしたり。 あまりよくありませんが代換文字として漢数字のゼロ「〇」をつかったりなどです。
ある「見出し行」から次の見出し行の直前(もしくはファイルの末端)までの間は、ひとつのまとまりと見なします。すなわち「セクション」です。 横文字はどうも……ということでしたら、「章」のように読み替えてください。
Θέσπης(テスピス)では、テキストファイル中の見出し行から以下のセクションを認識して、必要なxhtmlファイルをEPUB3ファイル内に生成します。
セクションの種類 | 見出し記号 | 使用例 |
---|---|---|
タイトルページ | ■ | ■火山灰地 |
登場人物 | ◎ | ◎登場人物 |
トビラページ | ■ | ■第一幕 |
戯曲の本文(シーン) | ● | ●シーン1 |
その他 | ◎ | ◎著者紹介 |
奥付 | ◎ | ◎奥付 |
以下、セクション毎の書式について説明していきます。
文書の最初にある「■見出し」のセクションは、タイトルページになります。
タイトルページは「トビラページ」の一種で、固定レイアウトのページとして生成されます。
書式:
■劇の題名
作・著者名
Θέσπης(テスピス)は、このセクションが文書の最初にあれば、タイトルページを生成します。
その際、題名、サブタイトル、著者名等は、後述の「奥付」にあるものを使います。
「作・作者名」のように、作者名が入っている場合、「著者名」の前後から冠につけたい言葉を認識して、タイトルページに付け足します。
例えば「戯曲・著者名」となっていれば、「戯曲・」を著者名の前置と認識して、期待どおりの表記でタイトルページをつくります。 同様に「著者名・作」のように後置がある場合も、Θέσπηςは「この著者はこーゆー風に表記したいんだな~」と認識し、そのようにします。 ただし、ここに書く著者名は、後述の「奥付」にある「著者」の項と完全一致していなければなりません。
「作・」だの「戯曲・」だのを付けたくない場合は、ただ単に著者名だけを書いてください。
「◎登場人物」という見出しで始まるセクションは、登場人物紹介のセクションになります。
書式:
◎登場人物
登場人物名説明
登場人物名説明
登場人物名説明
登場人物名説明
登場人物紹介のセクションでは、登場人物名とその説明の一覧を主に記述します。
登場人物名は必ず行頭から始まり、タブで区切って説明を書きます。
説明文が、改段されて複数行にわたる場合は、以下のような書き方ができます。
登場人物名説明
登場人物名説明
説明のつづき
説明のつづき
登場人物名説明
「登場人物名{タブ}説明」の行の次が、別の登場人物の定義もしくは空行ではない場合、Θέσπηςは説明文の続きとみまします。 その際、全角スペースを除く行頭の空白文字(半角スペースやタブ)は無視されます。 上の書き方のように、タブ(幾つでも)を入れてインデントを揃えて書いてもよいし、行頭からいきなり始めてもよいです。
登場人物名だけを羅列したい場合もあるでしょう。以下のように、説明があるべき場所に半角の「*」を書くと、 EPUB化の際には空欄になります。
登場人物名*
地の文として{タブ}を使わずに書くか、ズルですが、登場人物の定義のように書いてください。
以下は、岸田國士の『紙風船』 の登場人物の項を、Θέσπης記法にした例です。
「●シーン名などの見出し」の行で始まるセクションは、戯曲本文(シーン)です。
戯曲本文(シーン)のセクションは、は主に「ト書き」と「台詞」の行で構成されます。
行頭から「{タブ}ト書き」となっている行は、ト書き行です、
書式:
ト書き
空行などを挟まずにト書き行が連続している場合は、ひとまとめでト書きブロックとします。
視認性の向上と、Θέσπης(テスピス)が正しく構文を解釈するために、ト書きブロックの前後には、空行を挟むようにしてください。
行頭から「登場人物名{タブ}台詞」となっている行は、台詞行です。
書式:
登場人物名台詞
台詞中に改段したい場合は、次のように記述します。
書式:
登場人物名台詞
登場人物名台詞
台詞の続き
台詞の続き
登場人物名台詞
ある登場人物の台詞は、次に別の登場人物の台詞が来るか、空行が来るまでの間、前の台詞の続きと見なします。 その際、全角スペースを除く行頭の空白文字(半角スペースやタブ)は無視されます。
つまり改行を挟んだ次の台詞は、タブを入れてインデントを揃えて書いてもよいし、空白文字を挟まずに行頭から書いてもOKです。
以下は、岸田國士の『紙風船』 の一部を、Θέσπης記法で記述した例です。
ト書きの前後には空行を挟んであることに注意してください。
文書の冒頭以外で「■見出し」で始まるセクションは、トビラページと見なします。
数幕ある劇では、シーン「●」より上のレベルの見出しが欲しくなることがあるかもしれません。その際は、トビラを使うと良いでしょう。
書式:
■見出し
本文
本文
トビラには、見出しの他に本文を含めることができます。
奥付や登場人物紹介以外の、「◎見出し」で始まるセクションは、汎用のセクションと見なします。
書式:
◎見出し
Θέσπης(テスピス)では、登場人物紹介と奥付以外の汎用セクションは、ただの縦書きページとしてEPUB化します。
まえがき、あとがき、著者紹介、上演歴などなど、どのようにも使えます。
「◎奥付」で始まるセクションでは、書誌情報を記述します。
書式:
項目名項目の内容
項目名項目の内容
項目名項目の内容
行頭から「項目名{タブ}項目の内容」のように記述します。
奥付に記載できる項目名は以下です。 mustとなっている項目を記載しないと、Θέσπηςではエラーとなります。
項目名 | 意味 | |
---|---|---|
書名前置 | 書名の前に置くサブタイトルです。 | |
must | 書名 | 劇の題名です。 |
書名後置 | 書名の後ろに置くサブタイトルです。 | |
サブタイトル | 「書名後置」と同義です。 | |
must | 著者 | 戯曲の作者名です。 |
must | 発行元 | 発行元となる会社や個人の名前です。 |
発行者 | 発行元とは別に責任者を記載したい場合はこの項目に書きます。 | |
発行元連絡先 | 発行元との連絡手段です。 | |
must | 発行日 | 書籍の発行日、または制作日です。 |
must | 著作権者表示 | (C)表示です。著作権者が誰なのか明示するための項目です。 |
著作権補足 | 「著作権者表示」の補足条項です。 | |
禁止条項 | 「著作権補足」と同義です。 | |
ISBN | あれば、ISBNを書きます。 | |
電子出版コード | あれば、電子出版コードを書きます。 | |
書籍製作 | この電子書籍を製作した会社・個人の名前です。 | |
底本・題名 | 底本があれば、その題名を書きます。 | |
底本・諸情報 | 底本に関しての諸情報を書きます。 | |
その他 | その他の、奥付に載せたい項目や文章はここにまとめて書きます。 |
Θέσπης(テスピス)はこれらのデータを書誌情報として受け取り、 メタデータを作成すると共に、奥付としてレイアウトしたページを出力します。
奥付は横書きのページです。
※奥付の項目は、今後のバージョンアップで増える可能性があります。
※奥付の項目をつくるにあたっては、 日本電子書籍出版協会 の、電子書籍「奥付」推奨モデル を参考にしました。
以下の項目は、奥付には記載されませんが、メタデータとして"content.opf"に記載されます。
項目名 | 意味 | |
---|---|---|
書名ヨミ | 書名の読み仮名です。全角カタカナで記述します。 | |
著者名ヨミ | 著者名の読み仮名です。全角カタカナで記述します。姓名を明示するには、姓と名の間を「,」※カンマで区切ります。 |
Θέσπης(テスピス)は、見出し行から文書構造を解析し、目次を自動生成します。
目次の位置は、タイトルページがあれば、その直後。タイトルページがなければ、(カバー画像を除いた)文書の冒頭になります。
Θέσπης記法(テスピスきほう)を用いて書いた戯曲の例です。
一応お断りしておきますが、Θέσπης記法を説明するためにつくった、実在しない作家によるでたらめな嘘作品です。 内容に意味はありません。
以下から作例をダウンロードできます。
青空文庫 に掲載されている岸田國士の戯曲『紙風船』 のテキストを、Θέσπης記法に置き換えたものです。
※表紙ナシ
この解説文書のために用意した、架空の劇作家による作例をテキストファイルにし、Θέσπηςを用いてEPUB化しました。
※表紙ナシ